勇者電心サイファー
02:眠れる勇気 蘇る希望


(膝を限界まで曲げ、体を前に振り出す力を使い、跳躍力を思いきり伸ばす)
サイファーは2階から1階に飛び降りる為に必要な「命令」を体に下す。
次の瞬間、界人の体は晶を抱いたまま空中にあった。
(上半身を前方、下半身を後方に振り、体を一回転させ、アームの攻撃を避けつつ着地)
腹部を中心に界人の体は縦回転をはじめる。コンマ何秒もしないうちに、暴走ロボットのアームがそれまで頭のあった位置を通過した。
ちょうど1回転を終えた終えたところで、足の裏が地面につくのを感じる。
体重がちょうど分散されるタイミングで、ギュン、と体を縮めてショックを抑えると、その立ち上がる勢いを利用して界人は凄まじい勢いで走り出した。
(柔軟性はあるが、耐久力はさほどではない・・・やはり基礎体力が今ひとつか)
サイファーは界人の肉体をそう評した。

それまでの一部始終を「観て」いた界人は、自分の体の可能性に驚嘆するとともに、現状把握をしきれずに混乱していた。
(ロボットアームが渡り廊下を壊す瞬間に意識がとんで・・・気が付いたら俺の体が勝手に・・・?)
今の界人には通常の肉体感覚がまるで無かった。
まるで、他人の視点から見たカメラ映像を、拘束された状態で見ているような感覚だった。
つまり、自分の体が何をしようと、傍観するしかない状態だった。

界人はこの状況を脱しようと、勝手に動く「自分」とのコンタクトを試みる。
(どうなってる!? どうして俺の意思に反して動く、神崎界人!!)

<<悪いが緊急事態だ。この体は少しの間、私が借りる>>

頭の中に返事がこだまする。腹の立つことにそれは自分の声だった。しかし妙に不器用な話し方だ。これは俺ではない。そういえば意識がとぶ瞬間、こう名乗った声が聞こえたっけ・・・
(お前、サイファーとか言ったな。端的に聞こう、お前は何だ!?)
<<端的に言えば、君の一部・・・そういった表現が適当だ。今は詳しい話をしてる余裕はない。大至急『私の体』と合流しなければ>>
(『体』・・・?)
その時、目の前に液体が入った缶が数個転がってきた。
それを見た界人、いやサイファーの顔色が変わった。
<<即席のグレネードだと!?>>
サイファーは素早く界人の足に命令を下す。
次の瞬間、足は鞭のようにしなり、プロサッカー選手顔負けのキックを缶に食らわせる。
缶は廊下の窓を突き破り、外に飛び出す。1秒後、乾いた爆発音が響き、ネジや釘があたりに散乱した。
(今のは・・・?) <<空き缶とネジと釘、それと薬物を利用した即席の手榴弾だ。こんな物を即席で作るだけの知恵を身に付けさせるとは・・・ヤツめ、予想通りついに動き出したか>>
(ヤツ? ・・・ますますわからなくなってきた。お前は一体何なんだ?)
<<今の爆風で壁がうまい具合で吹き飛んでくれた。ここからなら私の体にすぐにたどり着けるだろう。行くぞ>>
界人の質問を無視して、サイファーは走り出す。

「どうすんです、チーフ? サイファーの動きをマークしてましたが、この分じゃ、『アレ』も必要になりますよ!? ISSに連絡は済んでますか?」
『問題ない! 整備のほうもバッチリだそうだ。宇宙開発の予算を増やしてくれた首相には感謝だな』
「ならOKですが・・・おお、来た来た!!」
ヤンは電話を切り、晶を抱いて走ってきた界人 ―今はサイファー― を出迎えた。
「待ってたぞ! えーと・・・今はどっちなんだ?」
「私だ、ヤン主任」
「その口調・・・サイファーだな? それから神崎界人君・・・あと、そっちの女の子は?」
「彼女は・・・」
(ちょっと待てよ!! その前に俺を自由に・・・)
「ああ、そうだったな。ヤン主任、彼女は菱井晶、界人の同級生だ。現場で界人と共に暴走ロボットの破壊を試みて巻き込まれた。・・・それより早くボディの起動を。私がヤツの相手をしている間、彼に事情を話してやってくれないか」
「OKOK。いつでもいいぞ!」
サイファーは頷くと、静かに目を閉じる。きっちり2秒後、サイファーはカッと目を開いて宣言した。

「Ready Access!!」

「・・・!! あれ・・・俺は・・・」
界人は急に体が重くなった感覚を覚えた。そして、無意識に手を握ったり離したりしている自分に気づく。
「体が、体が動く!」
「そりゃあよかった。それより早くそのNSXから離れたほうがいいぞ? 名車だからな、あこがれるのはわかるが・・・」
「ええ・・・失礼ですけど、どちら様で?」
「ああ、僕はヤン・リャンフェイという。こう見えてもA-C-E-S(エイセス)に勤務していて・・・」
ズドォォォォン!!

「ちっ、まさかさっきの手榴弾をパワーアップさせたってのか?」
<<主任、界人! 早く非難を!! 私がここを食い止める!!>>
「任せたぞサイファー! 言っておくが・・・絶対に『敗ける』な!」
<<了解・・・! ミッション開始!!>>
サイファーはヤンたちが現場を離れたのを確認し、「ギアを一速に叩き込んだ」。そして、

<<モードチェンジ!>>

NSXはわずか0.5秒で人形ロボットへと変貌した。
「工業ロボットになるはずが、破壊ロボットとして完成してしまったお前の運命には同情する・・・しかし野放しにはしておけん。覚悟!!」

「何なんだあれは!? 車が喋るわ、ロボットになるわ、おまけに俺は変な人格に体を乗っ取られるわ・・・ヤンさんとか言いましたね、あなたは事情に詳しそうだが・・・」
「その前に保健室はどこかな? 彼女の頭の傷を診なければならない」
「ああ・・・そこを右に曲がってすぐだけど・・・」
界人達は、生徒たちが避難して無人となった学校に駆け込んでいた。
晶をベッドに寝かせると、ヤンはすぐに晶の髪をたくし上げて傷を確かめ、次いで瞳孔と呼吸・脈拍を確かめる。
「うん、この程度の傷なら縫う事も無い。気絶した原因は、まあ、脳震盪だろうな」
「それより事情を―」
「わかってる。1つ1つ説明していくよ。界人君。君はA-C-E-Sについてどれ位知ってる?」
「どれ位って・・・警察と民間共同で作った、対電脳犯罪の警備・捜査・研究とかをしてる団体だってことくらいしか」
「うん。けどそれじゃ50点だ。実は実力行使の為の部隊もあったりする。あと、特に重要な電脳犯罪と認められた場合には、警察より強い権限を持てたりもする。もともとエイセスって名前は、その部隊の名前を指す名称なんだ・・・エースの集合体、って意味でね」
「じゃあ、あのロボットはその部隊のもので、ヤンさんもその一員ってことですか」
「察しがいいね。あのロボットは『超AI』・・・人間の頭脳を模倣したAIシステムを積んでる。だから喋ったりもするし、完全に自分の意志で行動できる。サイファーはその雛型だ。ここまでこぎつけるには10年かかったけど」
「信じられないけど、まあ本当なんだろうな・・・実際この目で見たわけだし。でも、まだ腑に落ちない点が1つ。何で俺はさっきまで変な人格・・・サイファーか・・・そいつに体を乗っ取られてたんだろう?」
界人が尋ねると、ヤンは俯き、神妙な表情で、言葉を選ぶように一言一言を搾り出した。
「・・・これから話す事は、君の今後・・・いや、これからの世界に関わる、重要な事だ。正直、受け入れろというのは無理かもしれない。だが、君が今生きていられるのは、全てサイファーのおかげだという事、これだけは忘れないでもらいたい」

「・・・?」
ヤンは界人の瞳を真正面から見つめた。その表情には先ほどまでの余裕は無く、あらゆる罵詈雑言も受け入れよう、そんな覚悟が見て取れた。
「君は10年前に、東京でテロに巻き込まれた。そしてその時、重傷を負って入院していた時期があったね?」
「まあ・・・そうです。頭の手術をしましたけど、その日の事はあまり記憶がないんです。ビルが崩れてきて、次の瞬間には気づいたら病院のベッドの上だった・・・そんな感じですけど」
ヤンは頷くと、目をぐっと閉じ、覚悟を決めなおした。そして界人に真実を告げた。

「君はその時に脳に重篤な損傷を負い、脳死状態に陥った。通常の治療では助からない。そこで執刀医はある決断を下した。
・・・人間の脳神経回路を模倣したニューロチップの移植手術。これで、『死にたて』の脳の機能を蘇らせ、その後の生命維持を代行させる。サイファーは君の脳内に宿るニューロチップ・・・『超AI』の人格だ。そして・・・サイファーの死は君の死、君の死はサイファーの死を意味する」

「・・・・・・・・・冗談じゃない」
界人はふらりと立ち上がる。そのまま我を失ったかのように、ふらふらと保健室の中を徘徊しだした。
「そりゃ、助かったのはその治療のおかげかもしれない・・・だけど、だけどだぞ!? その代償が強烈すぎるじゃないか・・・おかしな機能が体に追加された上に、あれだろ、これからあんな暴走ロボットどもと戦う宿命を負わされたって、そんなオチだろ!? そんな話があるかよ・・・!!」
ひとしきり吐き出すと、界人は全身の力が抜けたようにベッドに突っ伏す。
「君の気持ちはわかる、なんて無責任な事は言わない。しかし、その執刀医が君のお父さんだったとしたらどうする?」
「・・・何・・・だって・・・?」
「神崎先生と君のお母さんは君と一緒にテロに巻き込まれ、重傷を負った。病院に担ぎ込まれたときには2人とも動く事もままならない状態だったんだが、それをおして君の手術を行い・・・終了と同時に息を引き取った。立ったまま、自分の一生に悔いは無かったと心から信じてるような・・・そんな表情でね」
「・・・・・・」
「本来、サイファーは警官や自衛官の中から募った志願者に移植される予定だったんだが、その計画をあえて曲げたのは、自分の子供を助けたい気持ちももちろんだが・・・何より君を信じていたからだろう。君の全てを10年間で学んでサイファーは育ってきたんだ。そうでなければあんなに真っ直ぐな心にはならなかったろうね、サイファーは。今日の君の行動を見れば、わかるさ」
「・・・でも、俺には何も特別な力があるわけでもない・・・。今日だってアイツが体を操ってなければ、俺は死んでた・・・! 戦えだなんて、俺には無理だよ・・・!」

一方。
サイファーは暴走ロボットと組みあう。だが、体格では暴走ロボットが上だった。
じりじりと押されていくサイファー。しかし、
「今だ・・・!」
サイファーは腕の力を抜くと、即座にしゃがみこみ、自ら仰向けに倒れこむ。
そして覆い被さってきた敵の腹に片足を当てると、巴投げの要領で後方に投げ飛ばす。
「良し・・・ヤン主任が組んでくれた格闘戦用プログラムはいい調子だ・・・!」
サイファーは投げ飛ばした敵に向かってダッシュし、上空で跳躍。
「このまま中心部を蹴り飛ばして破壊し、一気に決め・・・くっ!?」
ジャンプの頂点でサイファーのセンサーは強制的に蹴りの動作をキャンセルさせた。
「ちっ・・・この工場の資材を使って自爆システムを作り上げたのか!? 敵の腹の中に水素が充満している・・・このままでは攻撃できないか・・・!」
一度間を置いて身構えるサイファー。その間に再起動した敵は、界人たちが避難する時に投げてきたのと同じような缶詰爆弾を投擲してきた。
「今の私の体にそのようなものは効かない! はあッ!!」
幾つも投げられた缶詰爆弾に手刀を食らわせて破壊するサイファー。しかし、そのうちの1個が爆音とネジ釘の代わりに、凄まじい光を放った。いきなり直接太陽を見た時のようなまばゆい光をまともに受け、視覚センサーがエラーを起こす。
「何っ・・・これはマグネシウム・・・しまった、視覚センサーが!!」
一瞬視界がブラックアウトし、敵を見失うサイファー。慌てて補正をかけて視覚センサーを復帰させるが、サイファーの目の前に巨大なアームが迫っていた。
「ぐああっ・・・!!」
大質量のパンチを受け、サイファーの体はあっさりと吹き飛んだ。
「う・・・くっ・・・」
サイファーは体を起こすが、背後に生命反応を3つ感じ取り、回避の選択肢を消去する。
場所は保健室、一人は民間人、一人はエイセス職員、そしてもう一人は最重要防衛対象「神崎界人」・・・!
再び迫り来る暴走ロボット。どうやら界人に狙いを絞り、校舎に体当たりをかけて破壊するつもりらしい。
「・・・私は誓ったのだ・・・貴様のようなヤツに、我らと人類の希望を消させはしないと・・・うおおおおおっ!!」
裂帛の気合と共に、全身でロボットを受け止めるサイファー。

「うわ・・・!!」
視界一杯にロボットが飛び込んできた界人は、思わず身構える。
しかし、数秒後に襲ってくるであろう破壊は、耳障りな金属音に取って代わっていた。
「・・・サイファー!?」
「くっ・・・界人、主任、早く晶さんを連れて避難を・・・!!」
「わ、わかった! 界人君、さあ行こう!」
ヤンは晶を負ぶって避難を促す。だが界人はその場に突っ立ったまま、動かない。
「ダメだ・・・」
「何がダメなんだ界人君! 自殺する気か!?」
「そうじゃない・・・このまま俺が避難しても、ヤツは俺を殺すまでどこまでも追って来る・・・そうなれば周りも巻き込まれるし、俺もいずれやられる。となると当然サイファーも死ぬ・・・誰もヤツを止められなくなる」
「界人君・・・」
「・・・成り行きとはいえ、こいつを生み出したのは俺です・・・俺の手で止めなければ、みんなやられるってのに・・・俺には何の力もない。畜生・・・俺に力が、力があれば・・・!!」

同時刻。
「くうう・・・エイミ、Gサテライトとメガディスカバリーは出せないのか!!」
「ダメです、あれの呼び出しにはサイファーと界人君の脳波のシンクロが必須なんです」
「そうだったな・・・外部ハッキングに対する究極の防衛措置として作ったシステムが、こんなとこで仇になりやがった・・・!」
頭を抱える東郷。そのとき、追い討ちをかけるように緊急通信が入る。
「こんな時に、誰だ!!」
「はい! こ、この連絡先は・・・ISS(国際宇宙ステーション)です!!」
「ンだと!? まさか宇宙工場が乗っ取られたなんていうんじゃなかろうな!! 繋げ!!」
数秒のタイムラグの後、ISSの宇宙飛行士が通信に出る。
『東郷チーフ、どういうことです!? Gサテライトが勝手に静止軌道砲撃モードへの変形シークエンスを発動してますよ! そちらで起動シグナルを出したんですか?』
「いや、ウチは出してない! どこを撃とうとしてんだ!!」
『待ってください・・・出ました、射撃ポイントは・・・日本、ポイントA−011、国際情報高専です!!』
「ンだと!? エイミ、シグナル発信元を逆探!!」
「わかりました・・・そ、そんな・・・界人君の脳内から単独でシグナルが出てます! 信じられない、サイファーを介さずに直接起動させるなんて・・・!」
「なんてこった・・・あのボウヤ・・・思った以上にすげぇヤツだ。よし、砲撃後に2つとも待機させておけ! この分だと、すぐ初陣になりそうだ!」

「ぐ・・・おおっ・・・!!」
全力でロボットを押し返そうとするサイファーだが、限界が来たのかパワーが弱まり、じりじりと後退していく。
「させるか・・・っ! これしきの事で・・・私は・・・!!」
しかし、パワーが上がらずにどんどんサイファーは校舎に追い詰められていく。誰もが校舎とロボットのサンドイッチにされると思ったそのとき、空が赤く光り、次の瞬間にはロボットの右腕が肩口からスッパリと切り落とされた。
「今の砲撃は・・・うおおおおおっ!!」
チャンスを逃さず、サイファーは渾身の力でロボットに蹴りを見舞う。姿勢を崩していたロボットは轟音と共に倒れ伏し、腕を失って、立つのに苦労している。
そこに界人らが駆けつける。

「界人・・・」
「・・・俺は何の力もない。A-C-E-Sのスタッフみたいな特殊な技能も資格もない。親父の影を追いかけて、ただいきがってただけの子供だよ。そんな俺なのに、何でお前は俺の中にずっと宿りつづけてたんだ・・・?」
「いや、界人には他の誰にもない素晴らしい力がある。それは、自分の弱さを認めることができ、最後まで諦めない、ひたむきな『勇気』だ。私はそんな界人を尊敬していたからこそ、君を陰ながら守りつづけてきたんだ」
「サイファー・・・」
「界人、力を持つことだけが強さじゃない。勇気があるから強くもなれる。君の勇気を私にも分けてくれ、界人。君の勇気を、私が力として具現化する・・・!」
「・・・わかった・・・行こうサイファー、俺達でヤツを片付ける!!」
「了解だ・・・!」
二人の様子を見ていたヤンは、いつも携帯している小型PCが呼び出し音を鳴らしているのに気づく。
「これは・・・脳波パルスが完全に一致している!? やはり先生の判断は正しかったか・・・司令室、こちらヤン! アレを使えるときが来たみたいだ!」
『おお、こっちでも掴んだぜ! スタンバイは済んでる、いつでもOKだ!』
ヤンは二人に頷いてみせる。
それだけで界人は全てを察した。
(俺の『勇気』とサイファーの『力』・・・10年の時を経て、今、一つになる)

そのためのキーワードも、本能的に脳裏に浮かんできた。
体が、心が、「それ」をせよと叫んでいる。
そう、その名は・・・

「電脳結合(サイバネティック・コネクテッド)!!」

「来たぜ! エイミ、準備は!?」
「メガディスカバリー、Gサテライト収容完了。大気圏突入シークエンス開始します!」

猛烈なスピードで降下して来るスペースシャトル、メガディスカバリー。
目標地点は、県立国際情報高専。

「大気圏突入完了。ドッキングフェイズ2に移行します!」

サイファーは一度自動車形態に戻ると、界人をコクピットに収める。
インパネ部分が全て収納され、代わりに対Gアブソーバーがドアや足元から展開し、界人の体を包み込む。
そして、車体底部に設けられたバーニアで一気に飛翔する。

「Gサテライト、収納ベイから展開。メガディスカバリー変形開始、ならびにコクピットコア誘導開始」

サイファーはエンジンルームを軸に90度折れ曲がる。
人工衛星、ジェネラルサテライトが変形し、ソーラーパネルを肩部分に展開し、中央部にサイファーのコクピット部分を収納。
次いで、メガディスカバリーの各パーツがバラバラになり、バックパックと両腕、腰、両足を形作り、接続。
最後にメガディスカバリーの主翼が背中に展開し、サイファーの頭部がせり出し、その上に新たな頭部パーツが被せられ、マスクが展開。

「ドッキングシークエンス完了。パイロットとの神経接続率100%。生命維持に問題無し。チーフ!!」

「おおっ!!」
東郷は勇ましく立ち上がり、宣言した。
「ドレッドサイファー! 出撃ッ!!」

カメラアイに緑の光が宿る。
その姿は、あらゆる闇を拒絶するかのような白い輝きを全身から発散させていた。
白い巨神は自らの名を雄々しく叫ぶ。

「ドレッド・・・・・・サイファァァァァァッ!!」

「凄い・・・何だこの感覚は!?」
一瞬の意識喪失の後、界人は自分の存在が拡大化した、そんな感覚を味わっていた。
太陽の紫外線のシャワーが降り注ぐのが見て取れる。
逃げ惑う生徒たちの一人一人の声がはっきりと、別々に聞き取れる。
今、肌に触れる空気を構成する物質1つ1つがわかる。
自分が空を飛べるということが、違和感無く受け入れられる。

『大丈夫か? 今の界人の脳には、莫大な情報が流れ込んでいるはずだが・・・』
サイファーの声が聞こえる。
「大丈夫だよ・・・むしろこの感覚が当たり前の物に思えてきた。今なら確信できる、これならどんなヤツにも負けない。行こう、サイファー! 指揮と火器管制は任せろ!!」
『了解! では・・・行くぞ!!』
ドレッドサイファーが走り出すのと同じタイミングで暴走ロボットが立ち上がる。
またも爆弾を投擲してくるが、ドレッドサイファーは避けもしない。
「そんな豆鉄砲ではよろめかせることすら困難だぞ!!」
暴走ロボットは下がりつつ、今度はマグネシウム弾頭を乱射してきた。どうやら目くらましの間に退却し、生徒たちを襲う腹づもりのようだ。
「界人!!」
弾頭が炸裂し、辺りは真っ白い光に包まれる。
『光学センサーならそれで効くだろうが、サーマルセンサーなら誤魔化せないだろうが!!』
熱センサーをメイン視界として切り替えたドレッドサイファーは、光をかいくぐってロボットの首根っこをむんずと掴む。そして、
「はあああああああっ!!」
校舎と反対方向にブン投げ、遥か上空に舞い上がらせた。
「今だ・・・!! とどめをもらうッ!!」
ドレッドサイファーの両足から、銀色に輝く刃が現れる。
それを柄の部分で合せ、巨大な双剣としたドレッドサイファーは、全身のバーニアを全開にして飛び上がる。
『捕らえた!! やれ、サイファー!!』
「ジャッジメント・ゼロ!! おおおおおおおっ!!」

すれ違いざまに横薙ぎの一撃、さらにX字にロボットを切り刻むドレッドサイファー。
その1秒後、暴走ロボットは砂のようにボロボロに崩れ落ち、朽ちていった・・・

「・・・・・・う」
<<気が付いたか>>
「サイファー? そっか、終わったんだな・・・晶は?」
<<静かに。君と晶はあのロボットから必死で逃げ惑い、皆との合流が遅れた。晶なら隣のベッドに寝ている。あの巨大ロボットは私たちとは関係ない。今はそれでいい>>
「・・・あ、そうか・・・ここ、保健室か・・・」
<<そうだ。今はただ、休める限り休んでくれ。もうすぐクラスの皆が様子を見に来る。では、また後でな>>
「ちょっ、お前・・・」
呼びかけたが、サイファーは答えなかった。
代わりに、体と頭がズキリ、と痛んだ。
そうなのだ。サイファーと戦うと決めた以上、この痛みとも、そしてもっと激しい・・・恐らくは心の・・・痛みとも戦っていかねばならないのだ。
休息も戦士の仕事だ。サイファーは暗にそう言っていたのだ。
(・・・サンキュー。そしてこれからもよろしく、サイファー)
界人は心の中で呟き、静かに眼を閉じた。

夕刻
A-C-E-S本部 司令室

「いやぁ、こんなに熱血したのは何年ぶりだ? 何つーか、もう、ロボットアニメの第一話みたいな一日だったぜ」
「喜んでばかりもいられないっすよ、チーフ。何たって敵があのムラクモなんですから」
「判ってる。こっちとしてもいろいろと手を打たなきゃな。・・・ああヤン、後でコイツを書留で郵便に出してくれや。あて先はこの紙に」
「これは・・・エイセス警備保障のバイト身分証が2枚? で、あて先は・・・ははァ、なるほどね」
「そういうこった。ボウヤはともかく、あの嬢ちゃんも間接的とはいえ関わっちまった。気絶してたとはいえ、ムラクモのロボットにもろに顔を見られてる。狙われない保障は無いんでな」
「了解です。じゃ、お偉方にはうまくナシつけといて下さいね」
「ああ・・・俺の一番嫌いな仕事だがな」

数日後。
「晶、お前、バスで行けよ」
「ヤダね。せっかくただ乗り出来る車があるってのに」
「あのな、あの日以来俺らが何て言われてるか知ってるのか? 『疑惑の2人』だぞ!? なのにこれ以上誤解を増やすような・・・」
「言わしとけばいいんだよ。とにかく、オレは乗ってくからな!」
「お断りだ!」
『二人とも、急いでもらえないか? それに・・・そうして口げんかをしてる方が誤解をますます深くすると思うんだが』
路肩に止まっていたサイファーが、冷静に指摘する。
「・・・チッ」
二人は舌打ちして、サイファーに乗り込む。そしてすぐにラウンド2がスタートした。
(神という存在がいるのならば、私は願わずにはいられない。どうか、彼らに出来る限り長く、この瞬間を与えたまえ、と・・・)
サイファーは二人の少年少女を乗せ、ゆっくりと走り出した。


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